野外彫刻リサーチVol.2 セメント彫刻/After Permanence

《鳥とあそぼう》をめぐる思索
「野外彫刻とはなにか」を考えるシリーズ展第2弾、今回は1960年に山内壮夫によって制作され、今も東新川緑地(通称:三角公園)に設置されているセメント製の彫刻「鳥とあそぼう」をテーマとした企画展です。
展示では石炭産業とセメントの関係やセメント彫刻の系譜を辿るとともに、2024年から山内壮夫のリサーチを続けてきた広島県在住の美術家、友定 睦による新作インスタレーション《After Permanence》を展示します。
会期中にはギャラリートークや彫刻ウォーキング、「鳥とあそぼう」の清掃イベントを実施します。
野外彫刻リサーチ
1960年代以降、全国で展開された野外彫刻運動について広く調査し、 “野外彫刻”とはなにかを考えるシリーズです。テーマごとにゲスト研究者やアーティストを招き、リサーチと関連作品・資料の展示を行います。
| 会 期 | 2026年4月10日(金)~6月28日(日) 10:00~16:00 |
|---|---|
| 休館日 | 火曜日 ただし5月5日(火・祝)は開館します。 |
| 会 場 | ときわ湖水ホールアートギャラリー |
| 入場料 | 無料 |
会期中イベント
ギャラリートーク
[講師]友定 睦、文化振興課学芸員
[日時]4月10日(金)10:30~11:00/5月2日(土)14:00~14:30/6月21日(日)14:00~14:30
[費用]無料
[集合]ときわ湖水ホールアートギャラリー
申し込みは不要です。開始時間に直接集合場所にお越しください。
ワークショップセメント鋳造体験「鳥」をつくろう ※受付終了
※要申込
[講師]友定 睦
[日時]5月2日(土)10:00~12:00
[費用]500円
[集合]ときわ湖水ホールアートギャラリー
リンクからお申し込みください。
彫刻清掃《鳥とあそぼう》+ミニレクチャー ※受付中
※要申込
※雨天中止
[講師]高嶋 直人(彫刻みまもり隊みつばち)
[日時]5月23日(土)13:30~15:00
[費用]無料
[場所]宇部新川緑地
リンクからお申し込みください。
ギャラリートーク+セメント彫刻ウォーク ※申込不要
※雨天中止
展覧会を鑑賞したあと、ときわ公園内のセメント製の彫刻をめぐるツアーを実施します。
[日時]6月28日(日)13:30~15:00
[費用]無料
[集合]ときわ湖水ホールアートギャラリー
申し込みは不要です。開始時間に直接集合場所にお越しください。
ゲストアーティスト
友定睦(ともさだ むつみ)
1989 年兵庫県生まれ。2014年広島市立大学大学院芸術学研究科彫刻専攻修了。
公共空間に存在するものに関心を寄せ、人との関わりの中で静かに変化する状態から新たな物語性や彫刻性を探り、立体や映像、パフォーマンスなどを用いてインスタレーションを制作する。

「After Permanence/アフターパーマネンス」 制作風景


《鳥とあそぼう》をめぐる思索
After Permanence/アフターパーマネンス
彫刻家は自由な粘土で肖像や動物を作る。しかし、この自由な粘土は水気をおびやわらかくて、長く保存することはできない。これらを永久的な材料におきかえなければならない。(中略) 永久的な性質をもつ材料として、このセメントも近代的な彫刻や工芸品に完成させる最後の材料として立派な実材といえるのである。
パンフレット第 51 号「セメント彫塑」(工芸と工作) (1956年)
山内壮夫(やまうち・たけお)は、戦後に盛んとなった「セメント彫刻」を数多く制作した、当時を代表する彫刻家の一人である。《鳥とあそぼう》(1960)は、宇部駅(現在の宇部新川駅)前の噴水に設置されたセメント彫刻であるが、現在はそこから約2km離れた東新川緑地に移設されている。この作品は設置されてから65年が経過し、像には苔が生え、欠損箇所も見られるなど、時間の経過とともに緩やかに老いを刻んでいる。
本作《After Permanence》は、《鳥とあそぼう》への現代的なオマージュとして、「子ども」と「鳥」をモチーフにした彫刻インスタレーションである。
当時のセメント彫刻の技法や山内の残した記録を参照し、セメント彫刻とその制作過程を記録した映像を制作した。かつて一般的であったセメント彫刻は、現在ではほとんど実践されていない。本作では、完成した彫刻だけでなく、その制作プロセス全体が当時を再演する舞台となっている。 《鳥とあそぼう》は、子どもが鳥(型のオブジェ)を手にして遊ぶ姿を表した像である。「子ども」と「鳥」は、「未来」と「平和」を象徴するモチーフとして、戦後の美術表現において繰り返し用いられてきた。山内が駅前の噴水彫刻にふさわしい主題としてこれらを選んだことは、その造形からも明確に読み取ることができる。また、風になびくベールや軽やかなポージングには、西洋美術におけるキューピッドや天使のイメージと重ねられ、エンゼル像と呼ばれることもあった。この作品には、西洋美術に見られる神話的で無垢な子どものイメージと、日本の戦後社会において「未来」や「平和」を託された子ども像とが、バランスよく交錯している。
さらに、セメントという素材と子どもというモチーフの組み合わせは、当時の社会が抱いていた未来への希望を象徴しているともいえる。
しかし、冒頭に立ち返れば、《鳥とあそぼう》の設置から65年が過ぎ、朽ちながらも町の片隅にひっそりととどまる現在の姿は、過去の繁栄と現在の社会に漂う不確かさを静かに示しているようでもある。
本作では、現在を生きる子どもを3Dスキャンおよび3DCGによって造形化し、デジタルデータがもつ非物質性と永久性から立ち現れる現代的な視覚表現を取り入れて制作した。また、鳥は子どもから切り離され、独立した存在として配置されている。子どもは鳥を指差しているが、両者はもはや一体ではない。しかし、幼い子どもは言葉ではなく指差し行為によって世界と関係を結び、そのあいだには目に見えないつながりが立ち上がる。
現在において、子どもや鳥はもはや単純な象徴ではなくなっている。さらに、セメントという素材に対する神話的な信頼や、社会そのもののあり方も揺らいでいる。もし今日が「After Permanence」──すなわち、永久的だと信じられてきたものが終わった後の時代であるならば、これから何が残り、何が持続していくのかを、あらためて問い直す必要があるだろう。
セメントは劣化していく素材である一方で、「つなぎ直す」ことのできる性質を持っている。たとえセメント彫刻のかたちが失われていったとしても、セメントのように彫刻と人との関係性をつなぎ直すことで、記憶は更新され続けていく。
《After Permanence》
2026 セメント彫刻、3Dプリント、カラープリント、ビデオ
子どもの像 3DCG:田中麻鈴 粘土原型:北野さくら
鳥の像 粘土原型:宇根慈
制作協力: 猪野日向 大川なずな 重川貴一朗
宇部セメント製「鳥とあそぼう」

本展は、かつて宇部新川駅前に設置され、現在は東新川緑地(通称三角公園)に設置されている山内壮夫のセメント彫刻「鳥とあそぼう」(1960)に着目した展覧会です。広島県在住の美術作家 友定睦さんにご協力いただき、現代にアップデータとした「鳥とあそぼう」のセメント彫刻を新作していただきました。サイズは山内の「鳥とあそぼう」と同じですが、新作のモデルになっているのは現在1歳半の男の子です。制作映像と合わせてご覧ください。
「鳥とあそぼう」は噴水彫刻として1960年に設置されましたが、1983年に同場所に澄川喜一「そりのあるかたち」(1981)が新たに設置されることとなり、現在の場所に移設されました。古い写真からはっきりとした質感は確認できませんが、表面が劣化し、一部鉄筋が露出したり、手の指先が欠損するなど、かなり劣化が進んでいる状態です。それでも鳥、おそらくはおもちゃを手にかかげ、飛ばして遊ぶような子どもの姿は無邪気で、心惹かれるものがあります。木陰でひっそりと苔むす様子も、哀愁を誘うようです。この作品をどうにかしなければならないと思いながら過ごすうちに、愛着がわいてしまったのかもしれません。「鳥とあそぼう」に使用された宇部セメントのフライアッシュセメントは、工場の集塵装置に集まった灰を原料にしています。公害の原因となっていた灰が、駅を皆守るアートになる、そんな記念碑的作品だったともいえるのではないでしょうか。
「鳥とあそぼう」に限らず、市内に現存する1960年代に制作されたセメント製の彫刻はどれも劣化が進んでいます。今後、こうした作品をどうしていくのがよいのか。場所を移して室内で保存するのか、修復を施して元の姿に戻すのか。長く未来に残ることを夢見てセメントで作られた彫刻たちが抱えているそのような課題を、来場者のみなさんと共有する機会となれば幸いです。
文化振興課彫刻係
2026年4月10日
会場風景




宇部の炭鉱とセメント
「鳥とあそぼう」は、当時の新聞記事から宇部セメントの製品を使用して制作されたことがわかっています。
宇部におけるセメント業を概観するとともに、石炭産業との繋がりやセメントの基礎知識を紹介しています。